詩の中庭

日々の読書、詩集や詩書の書評、覚書など。

書評

鹿又夏実詩集『点のないハハ』(2022.10.25書誌侃侃房)感想

詩集題名に〈ハハ〉が入っているが、いわゆる母もの、あるいは母と子の葛藤を主題にした私小説風詩集・・・ではない。象徴化されたハハ・・・母から(乳房の象形とも言われる)〈ヽヽ〉を抜き去られた〈ハハ〉は、そもそも語り手の内にあった母、記憶の中の…

添田馨 詩集『獄門歌』(思潮社 オンデマンド2022.7.1)感想

獄門歌、Song of Prison Gate、と日本語と英語の題名が並んでいる。うっすらと何者かが現れ出ようとしているようなモヤモヤとした白地の上に、インパクトのある文字が詩集の“顔”一面に配置されている。目の錯覚のように中央に長方形が浮かび上がる表紙は、半…

峯澤典子詩集『微熱期 BLUE PERIOD』(思潮社2020.6.20)感想

静かで涼やかで遠くにゆらめき立つものに迎え入れられるような、“美しい時間”が広がる詩集だ。抑制された、しかし芯の立った文字を辿りながら、言葉の示す「意味」を、つい求めてしまう自身の性向を振り返る。意味を一対一に限定しない、しかしはぐらかした…

『昼の岸』渡辺めぐみ詩集(思潮社2019.9.1)感想

彼岸が夜の岸なら、昼の岸は此岸だろうか。そのあわいを開示する詩集、と言ってもよいかもしれない。〝生活〟から断絶してはいないが、日常的な次元からは飛翔している、緊密な詩行。 孤高の戦いを一人で挑み続ける者の静けさと覚悟が印象に残る。決然とした…

高良留美子著『女性・戦争・アジア』(土曜美術社出版販売2017年2月)感想(再掲)

『女性・戦争・アジア』の、広範で膨大、一つ一つの項目を突き詰めて考えていく高良留美子の仕事に圧倒されながら、関連書を繙きつつ、少しずつ読み進めた。高良氏の知識量と思索の深さはもちろんのことであるが、大きく包括的にとらえたり、異なった側面か…

『はなやかな追伸』日原正彦詩集(ふたば工房2021.7.15)感想

多彩な版画のような装画がとても美しい、ハードカバーのずしりと持ち重りのする一冊。レイアウトには十分な余白があるが、ぎっしり詰まっている詩集だというのが第一印象である。17行詰めなので見開きの文字数は多めの印象だが、視覚的な要因よりも、作品数…

『おだやかな洪水』加藤思何理詩集(土曜美術社出版販売2021.9.17)感想

少し縦長の判型、モノクロームの銅版画風の装画を辛子色の幾何学模様で縁取ったモダンなデザイン。透き通った青い鉱物をコラージュしたカバー装画が印象に残る。2010年の『孵化せよ、光』から数えて本作で8冊目となる加藤の詩集はすべて長島弘幸がデザインし…

『青売り』椿美砂子詩集(土曜美術社出版販売2021.6.11)感想

薄氷を切り出した薄片に青い血が滲み広がっているような、中川セツ子による印象深いカバー装画。詩集タイトルは漢字を英文の筆記体のようにデザインしたユニークな書体で、金の箔押しとなっている。文字デザインは長野美鳳。カリグラフィーの素養のある方な…

『十二歳の少年は十七歳になった』秋亜綺羅詩集(思潮社、2021.9.30)感想

透き通るように白い表紙に、曇りガラスのような温かみのある白でシンプルなかたちが刷り出されている。シルエットは大きなメロンと小さなスケートボードに乗った小さな犬だが、地球から宇宙へと飛び出していくようにも見える。そこに、黒字で一行、タイトル…

『しろい風の中で』田中眞由美詩集(土曜美術社出版販売2021.5.16)感想

濃紺の中に鮮血のように散る鮮やかな赤。エメラルドグリーンをしのばせたマラカイトグリーンの対比と、力強いペインティングナイフの筆致が印象深い装画は、著者の手になるものだという。題はthe earth 。そこに白抜きで「白い風の中で」とタイトルが入る。…

『野の戦い、海の思い』水島英己詩集(思潮社2019.10.31 )感想

水島英己の第六詩集、『野の戦い、海の思い』。力強い表紙装画。ざらついた紙質が、質感を添える。(装画 高専寺赫) 読了してまず感じたのは、ぎっしり詰まっている詩集だということだった。風の通る詩集、であるにも関わらず。それから、適切な表現ではな…

『月の声』ヤリタミサコ詩集(らんか社2021.10.29)栞

「月の声 を読む」~橋を渡って、さあ、月の声を なにしろ“ポスト・トゥルース”の時代である。詩集案を受け取った時は、ひとつの物語を多視点から描き出すことによって固定化した一方的な視点に鉄槌を下す、そんな痛快な詩集なのでは、と予期したのだが。予…

『ふづくら幻影』長田典子詩集(思潮社2021.9.1)感想

やわらかな銅版の装画に見入る。秋、実りと共に立ち枯れたつる草とその実をついばむメジロの繊細な像が、仄暗い草葉の重なりへ、その向こうへと誘いこんでいく。その上に平仮名で記された、ふづくら、の文字。帯文に失われた土地の名、とある。(装画 武田史…

『よろこびの日』和田まさ子詩集(思潮社2021.6.30)感想

藍色から浅葱のグラデーションを経て白地に青の幾何学模様と山吹色の光。朝の訪れを連想する装画が美しい(装幀・装画 井上陽子)。 帯に〈生きて帰ってきて さて、どうする〉とある。大病から生還したのだろうか?目次を見ると四章立て。一章の章題「苦い蜜…

『百年の鯨の下で』早矢仕典子 詩集(空とぶキリン社 2021.5.20)感想

早矢仕さんの詩は、静かに始まる。そして、中盤でふわりと飛翔する。誰もが“見ることができる”はずなのに、見ていないもの、見えていないもの。感じることができるのに気づいていないものに、心の肌を添わせるように触れていく、気がする。私も静かに読んで…

「地上十センチ」27号 和田まさ子さん個人詩誌 感想

和田まさ子さんの個人詩誌。表紙はいつもフィリップ・ジョルダーノさん。スタイリッシュなのにどこか懐かしい世界、壁画のような温かみと漆絵のような東洋のムードも孕む心惹かれる画家の作品です。並べるとまるで美術館のよう。 ゲスト詩人は若手の新鋭、詩…

『軸足をずらす』和田まさ子 詩集(思潮社 2018.8.1)感想

yumiko 2019/03/12 22:05(「note」より転載) 軸足をずらす 作者:和田 まさ子 思潮社 Amazon 前作の『かつて孤独だったかは知らない』(2016)では、移動する身体が呼び込んだ感情や体感と、深い知性に裏打ちされた思索とが接点を求め、時に共鳴し、時に軋…

『犀星の女ひと』井坂洋子 著(五柳書院 2021.2.28)感想

室生犀星の女性へのまなざし、俳句に表れる世界観・・・詩人の鋭敏な感性がとらえた書下ろし評伝。

『名づけ得ぬ馬』颯木あやこ 詩集(思潮社 2021.4.9)感想

わたしの中を駆け抜けていく馬のイメージはどこから来るのか。痛みを透き通った花へと変容させることばを求める詩人の祈り。