詩の中庭

日々の読書、詩集や詩書の書評、覚書など。

2022-01-01から1年間の記事一覧

鹿又夏実詩集『点のないハハ』(2022.10.25書誌侃侃房)感想

詩集題名に〈ハハ〉が入っているが、いわゆる母もの、あるいは母と子の葛藤を主題にした私小説風詩集・・・ではない。象徴化されたハハ・・・母から(乳房の象形とも言われる)〈ヽヽ〉を抜き去られた〈ハハ〉は、そもそも語り手の内にあった母、記憶の中の…

添田馨 詩集『獄門歌』(思潮社 オンデマンド2022.7.1)感想

獄門歌、Song of Prison Gate、と日本語と英語の題名が並んでいる。うっすらと何者かが現れ出ようとしているようなモヤモヤとした白地の上に、インパクトのある文字が詩集の“顔”一面に配置されている。目の錯覚のように中央に長方形が浮かび上がる表紙は、半…

瀬崎祐詩集『水分れ、そして水隠れ』(思潮社、2022.7.4)感想

みわかれ、みがくれ、と読ませる。見別れ、身別れ……山の下を流れ地上に沁み出し、別れてゆく水。水に流れゆく先の選択肢はあるのだろうか。みずは「見ず」という言葉にもつながる。山道や野辺の田舎道を連想させる表紙写真は、著者の撮影。砂利や土、野草が…

なんどう照子詩集『白と黒』(土曜美術社出版販売2022.6.5)感想

かけがえのない人を失ったとき、理不尽な死や突然の悲劇に見舞われたとき、その後の“生”を人はどうすれば生きていけるのだろうか。自らの心の動きを見つめ、心身の感受する自然や人との関わりの中にその照応を求め、生きる答えを――答えというよりも、支え、…

北原千代詩集『よしろう、かつき、なみ、うらら』(2022.6.20思潮社)感想

静かだけれど物凄い詩集である。すべての作品に驚きと不思議な世界への誘引力があり、しかも言葉の展開に無理がない。“現世”に居て、現世の言葉で歌われているのは確かなのに、光り輝く場所や闇に触れる場所のことが記されている。魂の居場所というものがあ…

山本博道詩集『夜のバザール』(思潮社、2022.5.31)感想

アジア各地を経めぐる旅から編まれた羇旅詩集……ということになるのだろう。しかし、猥雑で活気に溢れる“豊穣”な現在と、様々な痕跡や記念館、戦跡などから浮上してくる近現代の歴史の層が重なり、さらに“豊穣”に見える市井の人々が垣間見せる経済的な不均衡…

粟裕美子詩集『記憶の痕跡』(紫陽社2022.8.1)感想

のびやかさと時の深みを湛えた詩集。丁寧で無駄のない情景描写に導かれて、いま、目の前にある景色と語り手の心の中に浮かぶ景色、そして土地や歴史が「ことば」に託して語り伝えてきたイメージや物語が鮮やかに立ち上がり自然に接続していく。 言葉は人の一…

峯澤典子詩集『微熱期 BLUE PERIOD』(思潮社2020.6.20)感想

静かで涼やかで遠くにゆらめき立つものに迎え入れられるような、“美しい時間”が広がる詩集だ。抑制された、しかし芯の立った文字を辿りながら、言葉の示す「意味」を、つい求めてしまう自身の性向を振り返る。意味を一対一に限定しない、しかしはぐらかした…