詩の中庭

日々の読書、詩集や詩書の書評、覚書など。

2023-01-01から1年間の記事一覧

立木勲詩集『ウムル アネ ケグリの十二月』書肆 子午線(2023.2.1)感想

静かで美しい、強さを持った詩集である。美しい、という印象は、抑制された言葉の選択や呼びかけ、語りかけを基調としたリズム、リフレインや一定のスピード(アンダンテのような)で進んでいく詩行の進行の安定具合などから醸し出される“うた”の印象であり…

森山恵「つゆの空」感想 

森山恵「つゆの空」『ミて』163号(2023年夏号)寄稿作品 映像の鮮やかな、神話的な作品。壮大なファンタジーの一場面を思い浮かべるが、いわゆる「ファンタジー(こどものためのおはなし)」とはならないのは、そこに思想があるからだろう、と思う。論理や…

「弱さとは人をして祈りに導く使ひなり」~及川俊哉『えみしのくにがたり』を読む

1.水蛭子とは、何者か 2017年夏、私は『詩と思想』の編集委員として詩と思想新人賞の一次選考に参加した。その際、文字通り“度肝を抜かれ”たのが、及川俊哉の「水蛭子(ひるこ)の神に戦を防ぐ為に戻り出でますことを請ひ願ふ詞(ことば)」だった。現代詩…

「女性詩」成立の過程と周辺

〈私〉の物語をこそ――女性が女性の詩を読むということ (初出『詩と思想』2016年8月号 2020年3月加筆修正) 「男女雇用機会均等法」の前段となる「勤労婦人福祉法」が制定されたのは、1972年。それから約半世紀後の2016年4月、今なお続く格差を是正するため…

今、「囚人」を読むということ―三好豊一郎「蒼ざめたvieの犬」考

紺色の揉み紙の地に、朱の文字で 囚人 と記されている。1949年、岩谷書店刊、著者は三好豊一郎(1920~1992)。後書きによれば、前半部の総題「青い酒場」には44年以降の作が、後半の「天の氷」や「巻貝の夢」には39年より43年までの作が収められている。三…

今、「囚人」を読むということ―三好豊一郎「蒼ざめたvieの犬」考

紺色の揉み紙の地に、朱の文字で 囚人 と記されている。1949年、岩谷書店刊、著者は三好豊一郎(1920~1992)。後書きによれば、前半部の総題「青い酒場」には44年以降の作が、後半の「天の氷」や「巻貝の夢」には39年より43年までの作が収められている。三…

2015年度回顧と展望(一年間、詩誌月評を担当して)2016年『詩と思想』1・2月合併号掲載)

進化よりも深化を 季刊、月刊、隔月刊、個人誌、同人誌、総合文芸誌……この一年間、実に様々な「詩の現在」に触れることができた幸運を、読者の皆様に感謝申し上げたい。現代詩は行き詰まりを迎えているとも言われるが、私見では、むしろ新たな豊かさへの助走…

『びーぐる』に採録された書評(2014~2015年)

2014年~2015年、季刊詩誌『びーぐる』に投稿した書評を転載します。 「私たちは、つながっている」詩集『錦繍植物園』中島真悠子著 土曜美術社出版販売 定価(本体2000円+税) 血だらけの「あなたの指」が、「私の皮膚」を剥ぎとって、夜ごと刺繍していく・…

ミスター童心・・・武市八十雄さんの言葉(『みらいらん』5号2020年掲載記事)

童心、といえば思い出す名前がある。レオ・レオーニの『あおくんときいろちゃん』やいわさきちひろの『あめのひのおるすばん』『ことりのくるひ』、谷内こうたの『のらいぬ』『にちようび』などで知られる至光社の創始者、武市八十雄さん。福音館の松居直さ…

はちみつ色の記憶(『博物誌』50号2022年1月掲載記事)

いつも、“お守り”のように大切に引き出しにしまっている一篇の詩がある。吉野弘さんの「一枚の絵」。恐らくエッセー集からコピーしたものだろう、1978年12月と吉野さんの自注があるが、吉野さんのどの本で読んだものかどうしても思い出せない。 一枚の絵があ…

加藤泰義の「小さな詩論」―詩で生を思うということ

1 いつしか 訪れていたもの 夕べの庭に ひびきはじめるもの 初めには 山萩のしげみから 小さなふくらみの 一つ二つ さらに濃く 宮城野萩の 乱れ咲くなか 白露のとき こぼれるような こおろぎたちの声 2 まだ暑く蒸す 一日を終えて 帰ってゆくひとびとを こ…

比留間一成さんの思い出

比留間一成先生のお話を伺って (詩人 小山正孝の御子息、俳人の小山正見氏発行の『感泣亭 秋報』12号 2017に寄稿した文章を、一部補筆) ブレーメン通り・・・童話のような名前のその通りは、洒落た石畳とこざっぱりした街並み、それでいて活気にあふれた商…

橘しのぶ詩集『道草』(2022.11.10)七月堂 感想

道草、という白抜きのタイトル文字が、藪椿の茂みの上に置かれている。庭植えではない、枯れ蔓の絡まった路傍の、あるいは公園の片隅の茂み。丸く切り取られた写真が地球のようだ、と思う。 読みながら、悔恨、という言葉の意味を考えていた。悔いが残る、悔…

北島理恵子詩集『分水』(2022.6版木舎)感想

装画がまず、印象に残る。(版木舎の装幀は見返しの色合いやカバーとの共演も含めて、いつも感嘆させられる。)裏表紙の二人の背中を照らしている日差し、長く伸びた影の余韻。逆光の中でその表情はうかがえないものの……。 冒頭の作品「etching」を読んで思…