詩の中庭

日々の読書、詩集や詩書の書評、覚書など。

『月の声』ヤリタミサコ詩集(らんか社2021.10.29)栞

「月の声 を読む」~橋を渡って、さあ、月の声を なにしろ“ポスト・トゥルース”の時代である。詩集案を受け取った時は、ひとつの物語を多視点から描き出すことによって固定化した一方的な視点に鉄槌を下す、そんな痛快な詩集なのでは、と予期したのだが。予…

『ふづくら幻影』長田典子詩集(思潮社2021.9.1)感想

やわらかな銅版の装画に見入る。秋、実りと共に立ち枯れたつる草とその実をついばむメジロの繊細な像が、仄暗い草葉の重なりへ、その向こうへと誘いこんでいく。その上に平仮名で記された、ふづくら、の文字。帯文に失われた土地の名、とある。(装画 武田史…

『よろこびの日』和田まさ子詩集(思潮社2021.6.30)感想

藍色から浅葱のグラデーションを経て白地に青の幾何学模様と山吹色の光。朝の訪れを連想する装画が美しい(装幀・装画 井上陽子)。 帯に〈生きて帰ってきて さて、どうする〉とある。大病から生還したのだろうか?目次を見ると四章立て。一章の章題「苦い蜜…

『百年の鯨の下で』早矢仕典子 詩集(空とぶキリン社 2021.5.20)感想

早矢仕さんの詩は、静かに始まる。そして、中盤でふわりと飛翔する。誰もが“見ることができる”はずなのに、見ていないもの、見えていないもの。感じることができるのに気づいていないものに、心の肌を添わせるように触れていく、気がする。私も静かに読んで…

「地上十センチ」27号 和田まさ子さん個人詩誌 感想

和田まさ子さんの個人詩誌。表紙はいつもフィリップ・ジョルダーノさん。スタイリッシュなのにどこか懐かしい世界、壁画のような温かみと漆絵のような東洋のムードも孕む心惹かれる画家の作品です。並べるとまるで美術館のよう。 ゲスト詩人は若手の新鋭、詩…

『軸足をずらす』和田まさ子 詩集(思潮社 2018.8.1)感想

yumiko 2019/03/12 22:05(「note」より転載) 軸足をずらす 作者:和田 まさ子 思潮社 Amazon 前作の『かつて孤独だったかは知らない』(2016)では、移動する身体が呼び込んだ感情や体感と、深い知性に裏打ちされた思索とが接点を求め、時に共鳴し、時に軋…

『犀星の女ひと』井坂洋子 著(五柳書院 2021.2.28)感想

室生犀星の女性へのまなざし、俳句に表れる世界観・・・詩人の鋭敏な感性がとらえた書下ろし評伝。

『名づけ得ぬ馬』颯木あやこ 詩集(思潮社 2021.4.9)感想

わたしの中を駆け抜けていく馬のイメージはどこから来るのか。痛みを透き通った花へと変容させることばを求める詩人の祈り。